憂鬱☆ステーション
「うーん、もうほとんど日本のマンガは読んじゃったなあ……」

「やあ、ケンスケ君、何をそんなに悩んでいるんだい?」

「あ、マンガ博士!実はマンガを読みすぎちゃってもう読むマンガがないんだ。ねえ博士、何か面白いマンガ無いかなぁ?」

「ハハハ、ケンスケ君のマンガ好きも大概だなぁ、それじゃあ、アメコミに手を出してみるのはどうだい?」

「え~、アメコミ?アメコミってあんまり面白くないイメージがあるんだけど……」

「Fuck you……ぶち殺すぞ…ゴミめが……」

「は、博士?」

「ケンスケ君、ここにダークナイト・リターンズウォッチメンという二冊のアメコミがある。どちらもアメコミの最高傑作として名高い作品だ。これを明日までに読んでくるんだ。さもなきゃくびり殺す。」

「う、うん。分かった……」


【次の日】

「やあ、ケンスケ君。どうだった?その二冊は」

「うん、想像してたのと違ってすごく面白かったよ!アメコミってただヒーローが悪者をやっつけるだけの単純なものだと思ってたけど全然違うんだね!」

「アメコミにそういうイメージを持っている人は多いね。でも実際はその二冊のように重厚なテーマを扱った作品も多いんだ」

「でも不思議だなぁ、こういうテーマのある作品が最高傑作って認められてるのに、どうしてアメコミは単純ってイメージが強いんだろう?」

「それは有名な作品にそういう形態のものが多かったからだね。ハルクやスパイダーマン、X-メンくらいはケンスケ君も聞いたことあるだろう?」

「うん!映画にもなったから知ってるよ!」

「そうだね、せっかくだから話しておこう。アメコミにそういう作品が多くなった理由、“コミックス・コード”を……」


【コミックス・コード】

「博士、なんなのそのコミックス・コードって?」

「はは、焦らない焦らない。まずは時代背景から説明しよう。
今から60年ほど前、1950年代の頃だ。当時アメコミは黄金時代を迎え、スーパーマンやバットマンといった数多くの作品が生まれたんだ」

「誰でも知ってるような作品だね」

「当時のアメコミ業界の発行部数は1億5000万部を越えると言われたほどで、当時のマンガ文化の中ではどの国も差し置いて最も進んでいた、といっても過言ではないね」

「へぇ~、凄いんだなぁ」

「でも問題はあったんだ。マンガに夢中になって勉強をしなくなる子どもや、人造人間のような宗教的に問題のある表現、そして残酷や性的などの倫理的に問題のある表現などだね」

「あれ?なんだか最近どこかで聞いたような……」
「その話は置いておこう。まずはアメリカの話だ。
こういった問題もあるなかで、ドイツの精神学者、フレデリック・ワーサムは、“有害なコミックは子どもたちに悪影響だ”と述べたんだ。ワーサム自身が高名な精神学者だったこともあって、この説は大きな反響を呼んだ」

「もしかして……」

「そう。アメコミに対する迫害が始まったんだ。特に過激だったのは小さな子どもを持つ婦人団体や宗教的権威をないがしろにされた教会だった。一部ではアメコミを集めて焚書するなんてことも起こったんだよ」

「高名な精神学者が後押ししたから、アメコミ反対派の声が大きくなっちゃったんだね……」

「そうだね。しかしワーサムの論には無理があったんだ。彼は統計学的な調査をせずに極端なケースを持ちだしたから、論にまるで根拠がなかったんだ。事実、後の調査でワーサムの論はほとんど否定された」
「じゃあアメコミに対する誤解は解けたんだね!」

「ところがそうはいかなかったんだ。
1954年、コミック関係者ら規制反対派と規制賛成派があつめられ、公聴会が開かれたんだけど、そこで事件が起きた。
賛成派の上院議員、エステス・キーフォバー議員が“女性の生首を持つ男性”が描かれたアメコミの絵をテレビカメラの集まるなかでかざし、反対派に詰め寄ったんだ。当然その様子は全米に中継され、残酷な絵を見せつけられた民衆は規制賛成に傾いた」

「うーん、テレビを使って大衆を引き込むなんて、なんだか汚い気がするなぁ」

「この点に関してはキーフォバー議員を責める声もあるね。なにせ、この絵のアメコミを出版していたECコミックは、“アメリカ最悪の出版社”として猛烈なバッシングを受け、翌年には倒産まで追い込まれたからね」
「それで、アメコミはいったいどうなったの?」

「追い詰められたアメコミ業界は苦肉の策を採ったんだ。国による規制を免れるために、自主規制やレーティング、自主検閲を行ったんだ。これこそがいわゆる【コミックス・コード】なのさ」

「国による規制を免れるための自主規制か……。アメコミが本当に追い詰められてたのが分かるね」

「しかしコミック・コードの恐怖はここからなのさ。
業界は再びのバッシングを恐れ、過度な自主規制を開始した。
残酷な表現や性的な表現の禁止はまだしも、暴力表現は禁止、政治家や警察を悪人にすることも禁止、死ぬ描写も禁止、流血、同性愛、喫煙、飲酒、離婚……。ありとあらゆるものが禁止された」

「ええ!?そんなことになったらマンガなんて描けないよ!仮に描けたとしても、物凄く無難でつまらないものになりそう…」

「そう、ケンスケ君の言う通りだ。ケンスケ君や多くの人がイメージする、単純なアメコミがここに誕生した。ここからアメコミは1990年代の規制緩和まで衰退の道を歩んでいくんだ…」
「うーん、犯罪をなくすためとはいえ、やっぱりこうなるのは寂しいね……」

「ああそうだ。一応補足しておこう。犯罪をなくすという目的で始まったワーサムの論、ひいてはコミックス・コードだけど、犯罪は減るどころか増えたんだってさ」

「……えぇ!?それじゃあ本末転倒じゃない!規制にはなんの意味もなかったの?」

「だからこそ、我々はこの件を教訓にするべきなのさ。今、この国でも規制うんぬんが問題になってるよね?このコミックス・コードを教訓に出来るか、それとも二の轍を踏むのか、それは我々次第ってことなのさ」
「ふぅん、分かったよ博士!ボク、もっとマンガのこと勉強して、日本がコミックス・コードのようにならないようにするよ!」

「うん、期待してるよ。さて、話が終わったところで、本屋に行かなくちゃ。今日は私が好きなマンガの発売日なんだ」

「そういえば、マンガ博士ってどんなマンガが好きなの?」















「私はね、快楽天が大好きなんだ」



「台無しだよ!!」
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